人は花火を見上げていた。
僕は横を見ていた。
「今更だけど、病院の真裏で花火を上げるってすごいや。患者から苦情はこないの?」
「患者もスタッフも大盛り上がりよ。文句言うくらい元気な患者は退院させるし」
いつかの通話を思い出す。
片田舎の割に規模の大きい地元の花火大会は、遠く離れた地に住む僕にも関心があった。
帰っていたら一緒に見に行こうとは言わなかった。
その時期に僕が休みで地元に帰っていて、かつ彼女の三交代勤務のスケジュールが合う確率は考えるまでもなかったから。
それでも、空いていたら一緒に行こうという意思は伝わっていたはずだ。
10年以上会っていなくても、毎週のように話していればお互いを知ることができた。
結局、花火を一人で見ていた。
花火大会の4ヶ月前には僕らの通話は終わりを迎えていた。
小雨の中、花火を見守る。
ふと、花火以外に光るものがあった。
カメラのフラッシュではない。
もう一度光って、、、消えた。
病室だ。
花火の背景と化している病院の一室。
花火が上がるたびに病院の裏側は光を強く反射していた。
6階の端から2番目の病室が光って消えた。
数秒も経たず、今度は端から3番目の病室が光って消えた。
僕はその時点で確信したし、「もういいよ」と思った。
こんな時に部屋の電気をつけて花火を見る人はいない。
ましてや、すぐ消すなんて。
中学で1年から3年まで同じクラスになる確率はいくつだろう。
席は50音順で、彼女の直ぐ後ろが僕の席だった。
彼女と僕で席を跨ぐこともなく、彼女と僕の間に入る可能性のある某君とは同じクラスにならない確率。
彼女に力説したが不評だった。
2階から7階までは、各階に7つの病室がある。
外から見れば1階部分は他の建物で見えず、2階から7階までは同じ形をした窓が綺麗に整列していた。
それは教室の席の配置のようだった。
1列目から4列目までは7席、5列目と6列目は6席の計40席が僕らの教室だった。
端の病室の電気がつかなかったのが、掃除用具入れで6席しかいない5列目と6列目を表していた。
光っては消える病室の位置は、僕と彼女が中三の時に座っていた席と同じだった。
病院の窓が教室の席の配置と似ているなんて言ったことがあったか、むず痒い頭で思い出してみる。
小学校の写生大会の時か?いや、その時に別館はなかったはずだ。
そんな中でも、不自然に光っては消えるを繰り返す二つの病室が笑えてきて、思い出すのを放棄した。
僕は花火のフィナーレを前に帰ることにした。
チャウコン
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